H.Selmer Baritone saxophone serie3 試奏感想
さて、仏のサックスメーカーH.Selmer(ヘンリ・セルマー社)が満を持して発表したバリトンサックス・シリーズ3(セリエ3)・・・
吹いてきました。
以下ファーストインプレッション。
持った感想・・・軽い!マーク6と同程度。いやそれよりも軽いか?直接比べてないので分からないのですが。
吹き心地・・・おおお、良いじゃないですか!
楽器の軽さから「反応は早いが、音質も軽い」と予想していたのですが、半分は外れ。意外と低音に量感があります。
しかしやはり反応はムチャクチャ早い!最低音(LowA)の、ピアニッシモの立ち上がりは特筆すべきでしょう。
上から下まで全音域で量感が変わらないですね。
シリーズ2(セリエ2)の「末広がり」的な低音のどっしりした膨らみ(実際それが好きで愛用してます)は無いですが、クラシック等では絶対的に有利だと思いますし、なにより高音域も音が痩せないのです。太い!
では低音域が寂しいかと言えば上記したとおり十分な量感をもっていますし、音の立ち上がりが早いのを利用して、バキッとインパクトのある低音を出す事も可能です。
サブトーンも出しやすいです。
柔らかい音の響きも、ソリッドな音の響きも・・・と言った感じで万能。
コントロールが容易でイイカンジです。
ある意味「優等生のマーク6」とでも言いましょうか。
構造・・・徹底した軽量化と改良が加えられています。
特筆すべきはLowA周りの構造の改良です。
キイの押さえ込む方向が従来のセリエ2とは逆になり、スムースに押さえ込めます。
朝顔の、他の低音キイとの連動がユニークで、従来は左手テーブルキイの構造にアクセスする連動だったのが、セリエ3では直接、朝顔にある、他の低音トーンホール上のカップを押さえ込む構造。これは画期的です。
今まで(シリーズ2まで)はLowAキイ単体で押さえると、連絡構造の歪みが生じたのですが(なので同時に、左手テーブルキイLowB♭を補助的に押さえる必要がありました)この構造ですと、LowAキイ単体で押さえてもねじれが発生しないのです。
調整さえしっかりしておけば、LowAキイ単体での使用が容易になったのです。運指上のメリットは「大」です。
加えて、写真で見ていて注目していた、朝顔と本体の支柱構造。
マーク6まで、あるいは現行のヤナギサワ・ヤマハ等は立体的な三点支持でしたが、シリーズ2のバリトンは平面上の三点支持(アルト・テナーと同じ)ため、低音(特に最低音)の強奏で音がぶれやすいという弱点があるのです。
(そのため楽器自体も歪みやすい)
で、今回の構造、一見さらにヤワになったように見せて・・・アール形状と、アール縦方向の厚みによって横ぶれに対しての支持が強化されているのです。
軽量化と支持の強化を同時にクリヤーしています。
これが低音の安定感と立ち上がりの早さに貢献しているのは明らかでしょう。加えて必要以上に振動は殺さないため低音の量感もある訳です。
その他、リベットが見えないメタルレゾネーター(初期マーク6的。これの効果の程は不明ですが、立ち上がりに貢献しているかも)
管体上部の石突き状補強の撤去やU字管ガードの軽量化(これがバリトンでは細くなりがちな高音の響きの改善に貢献していると思われます)
キイがコンパクトにまとまっており、手の小さな方でも演奏可能でしょう。
気になるところ・・・ペグ(オプション。「足」です)の支柱下側に補強が無い点が少し気になります。ペグに全重量を預けない方が安全かもしれません。
結論・・・
イイです。
クラシックでは絶対的に有利でしょう。
吹奏楽にももちろん良いでしょう。
また、例えばビッグバンドでも・・・近年はプロアマ問わず女性プレイヤーが増えてきておりますが、体格のハンデを気にすることなく演奏可能(軽い・低音が楽・キイがコンパクト)な高級機種としてオススメです。
実際、最低音の立ち上がりの早さは・・・例えば学生ビッグバンドで良く取り上げられる、サミー・ネスティコアレンジのベイシー・チューンにたまに登場する「最低音一発!」をバシッとオンタイムで決める!・・・といった用途でも有利でしょう。
ではパワープレイヤーにとってツマラナイかと言えばそうでもなく・・・意外に量感がある上に、上の方まで音が太いので、例えばコンボ系ソリストにもオススメできます。
息の長いフレーズを吹いてる時の感覚はLowB♭の楽器を吹いている感覚に近いです。
もちろん、低音に量感があると言ってもConn系の「ドスの効いたズブトイ低音」では無いので、ジャズ系のプレイヤーであれば好みが分かれるでしょう。
ロック系でも好みは分かれるでしょう。ホーンセクションでも音は十分生きると思いますが。
上記のように軽量化により、下部石突きも小さめで、上部補強も無いため・・・「備品」にするには少しばかり「繊細」な楽器です。
なのでやはり、楽器の扱いに長けたプロ及びハイアマチュア向けの楽器であると言えます(それをふまえての価格設定だと思われます)
吹き込んで、どのようになっていくのかも未知数ですが・・・