谷甲州

の『軌道傭兵』を久しぶりに読み返しています。
面白い面白い。
ストーリーは地味なのに登場人物の行動は無謀。
そしてあとがきで何度も強調される
「これはSFではありません」
という「但し」をしっかり考えて読むとまた興味深いのです。
例えばある特定のジャンルの持つ価値観をしっかり想像して理解出来る、もしくは理解しようと努められるか?というリトマス試験紙のSF用、と言った感じです。
SF好きには、この『軌道傭兵』が作者の内部で何故「SFではない」のかが伝わると思うのですが、SF読みでない人が読んだら「何故SFじゃ無いと作者が思うのか?」と考え込んでしまう可能性があります。
価値観と感覚の共有とズレ、ズレを起こしている事に気がつかないというコトについて。
「理解」という作用(脳内作業?)の、重要さと言うよりは面白さ。
ある価値観を理解出来る、出来ない、ではなくて、理解しようとする思考の過程そのものの面白みについて考えたりしました。

そして谷甲州の作品がなんで好きなのかということも。
ハードウェアに対する愛情です。
この思いの深さは感涙モノですヨ。
技術者としての視点で書かれたフィクションって意外と少ないのですヨ。パッと思い当たるのは新田次郎東野圭吾くらいかも。
(もちろん実際はもっと居ますけど。名前が出てこなかったのです。お許し下さい…)
技術者としての仕事に誇りを持ち、同時に技術者の仕事の為のハードウェアに深い愛情を持つという感覚、ホント良いなあ。
さらに、谷甲州の、技術体系に対する律儀さも。
設定をするためだけに何冊も費やす感覚が、好きなんです。
しかもそうした「バックグラウンドの為の」話がまた面白いですし。
だがだがということは、そうしたシチュエーションをじっくり楽しめない人には、この面白さが伝わり辛いんだろうなあ。
…だからこそ「よしゃ!俺は応援するゾ!」と愛読者魂に火をつけるのですが(笑)

でも先入観を無くして是非多くの人に読んでもらいたい谷甲州の作品の数々なのです。
まずなにより面白いし、止まらなくなるし、いろいろ考えるキッカケになりますし。
文章は簡潔で、なおかつ映像的です。

そんな私の楽しみ、SFマガジ連載中の『パンドラ』単行本が出るのはまだまだ先ですネ。
楽しみです。